2017-07-14 001 002

◆「ブラック企業問題」の沿革と展望― ――20170716-123

●現実を見よう~!!!―

 実際七月に「年齢不問!中高年OK!・・配達員募集中!!」と言う事で応募し「●川急便」の下請け会社に就職(潜入)できた。ヤ●ト宅急便等とも大差なくブラック企業で有名である。本当のところ労働環境はどうなのか調べ見聞して観察してみたら、酷いものでした。私の場合は研修時最終日は12時間も働いて五日間の収入は交通費もなくたった一万円位であった。労働者達は長時間働かねばならないシステムになっているのだ。理不尽さに何ともいえぬ虚しさを覚えた。

 業界では益々荷物が増える一方で人材不足と低賃金で悲鳴を上げている状況なのだ。一方でお客には便利なアマゾンの宅配にも運賃を安くしろと泣かされているそうである。アマゾンも問題企業でもある。出版社・書店を始め日本の各企業が泣かされている。結局はそのしわ寄せがどこに行くのかと言えば、底辺の労働者及びお客様にツケが回って来るという訳なのだ。だから、早く気づいて頂き日本の為に、たとえ「便利」でも取引せず買わない事をお勧めする。やむなく「ブラック」になったのなら一刻も早く(日本人らしく)潔く出直して欲しいものだ。


 今日,「ブラック企業問題」は巨大な社会問題となった。だが,この言葉の出自をたどるならば,それはインターネット上の一つの言説に過ぎない。「ブラック企業問題」が労働問題であるとしても,派遣労働問題偽装管理監督者問題の様に,法的な概念として何かの問題が特定されている訳でも,まして学術的な概念でもない。

 しかし,それにもかかわらず,この数年の日本の労働問題や雇用政策はこの「ブラック企業」というキーワードを抜きに語ることは出来ないだろう。

 2013年8月以降,政府・厚生労働省は「ブラック企業」について,「若者の『使い捨て』が疑われる企業」と定義して対策を行ってきた。政府の対策の背景が「ブラック企業問題」の提起にある事は,厚生労働大臣(当時)の記者会見の中で明かされている。

 このように,「スラング」でありながら,この言葉のもった現実的な「社会的意味」は大きいとみてよい。そこで,今改めて考察すべきことは,「言説」としての「ブラック企業」の背景と射程である。「ブラック企業」なる言説は,いかなる原因から生起しており,それを「ブラック企業問題」として特定することで,どのような政策的・社会的示唆を私たちは得ることができるのか。

 さらには,もし「ブラック企業問題」が実在するとして,これに私たちはどのように対応していくべきなのか。これらの検討を通じ,今日の労働問題の実情と対応課題を提示することが,本稿の目的である。本稿では,第一に「ブラック企業」言説の出現と沿革について概説し,この問題の社会的性質を明らかにする。第二に,「ブラック企業問題」への社会的対策の在り方について検討する。(※言説とは、ふつう一定のメッセージをもった言語表現ないし言語活動 として理解される。 )

   1 「ブラック企業問題」の沿革―
 ⑴ 「ブラック企業」言説の出現―

 「ブラック企業」の語がはじめに「言説」として普及し始めたのは,インターネット掲示板「2ちゃ
んねる」における書き込みである。IT業界に勤務する労働者が,自らの働き方について批判的な書
き込みを繰り返し,これが話題となった。(それだけではないが・・。)

 その後,この書き込みを編集した出版物が刊行され(1),映画化された。2007年には新聞紙面に「ブラック企業」という語が初登場するが,その内容は,就職活動を行う学生の間で同語が広がっていることを紹介するものである(2)。だが,その内容は「真偽不明情報に惑わされるべきではない」という趣旨であり,あくまでも「インターネットスラング」としての扱いである。

 2008年,2009年には「ブラック企業」は主要新聞ではほとんど取り扱われず,低調が続く。再び社会的関心を集めるのは2010年以降であり,急激に取扱い件数が増加した。「朝日新聞」,「アエラ」,「週刊朝日」における「ブラック企業」の語を含む記事の掲載件数は2009年1件,2010年4件,2011年7件,2012年23件,2013年172件であり,特に2012年から2013年にかけて激増していることがわかる。

 この間に「ブラック企業」への認識が変化してきており,記事の扱いもインターネット上のスラングとしてではなく,雇用環境の劣悪な企業として紹介しているものが見られるようになっている(3)。

 ⑵ 背後関係となる「事実」の確定―

 「ブラック企業」は,「長時間労働」や「パワーハラスメント」など,複合的な労務管理から生じる問題であり,派遣労働や女性差別のような具体性をもった労働問題とは性質が異なっている。また,従来の若年雇用問題の中心を占めてきた「非正規雇用」の雇用類型にも属さない。この問題の分析には,若年正社員雇用に見られるようになった「新しい労務管理の在り方」の事実把握が必要であった。

 特定の違法行為に還元することのできない労働問題に対し,体系的に「労務管理の変化」としてはじめに問題提起を行ったのが今野[2012]である。同書では,「ブラック企業」の労務管理を「大量募集」「選別」「使い捨て」「無秩序」の各過程に分類し,労務管理の8つの「パターン」を挙げている。

 「大量募集」に際し,第一に「ブラック企業」は「月収を誇張」する手法を用いる(第一のパターン)。
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(1) 黒井勇人(2008)『ブラック会社に勤めてるんだが,もう俺は限界かもしれない』新潮社。なお,ここで用い
られている「ブラック会社」と「ブラック企業」の間には明確な使い分けが読み取れず,同義とみなしてよい。
(2) 日本経済新聞「「ネットシューカツ」は情報過多気味,優良中堅見逃す―SNS情報に動揺も(生活)」2007年12
月19日,夕刊17ページ。
(3) 例えば2012年3月22日の「産経新聞」における同語の初出記事では,「ブラック企業」を「低賃金での長時間労働やサービス残業,休日や休憩なしの勤務,暴言などのパワーハラスメントが当たり前で,違法性の強い劣悪な労働環境を強いる会社」と定義している。
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具体的には残業代をあらかじめ基本給に含みこませ,実際の賃金は正社員であるにもかかわらず,時間給がほぼ最低賃金に設定されることもある。第二に,「正社員」で採用するとしながら,入社後に「試用期間中は解雇できる」などと称する他,契約の有期雇用への改定を迫ることもある(第二のパターン)。こうして月給制の「正社員」との募集で大量に採用した後,次に見る「選別」「使い捨て」が行われる。

 「選別」においては,入社後も「試用期間」の満了と共に一定割合の新入社員の解雇を予告し無給の残業競争を強いるような労務管理(第三のパターン)や,不要だとみなされた社員をパワーハラスメントによって,意図的に精神疾患においやり自己都合退職させる技術(第四のパターン)が挙げられている。

 また,「使い捨て」の労務管理においては「残業代を払わない」(第五のパターン)「異常な36協定と長時間労働」(第六のパターン),「辞めさせない」(第七のパターン)が挙げられている。「残業代を払わない」手法としては「営業手当」などと称してあらかじめ賃金に含みこむもの(募集段階の虚偽表示と同様)や,管理監督者,裁量労働制などを濫用した手法が指摘されている。

 また,「異常な36協定と長時間労働」については,そもそも日本には従来から労働時間に上限規制がないた
めに,「過労死ライン」を超える命令が可能であるが,これが常態化しているとの指摘がなされている。さらに,「辞めさせない」技術としては離職手続きをあえて行わないなどの手法が紹介されている。

 その上,無秩序(第八のパターン)として,ハラスメント傾向のある社員(上司)を放置し,新入社員が離職に至る事態も指摘されている。

 以上の労務管理を図式的に示すと,「大量採用→使い潰し(選別・使い捨て)→大量離職」と表現できる。これらの企業では新卒を大量に採用する一方で,大量の離職を前提とした労務管理が形成されているが,これは同書で「新卒の価値低下」と表現されるように,新規学卒労働力を「交換可能な部品」とみなし,短期間に消尽する戦略的な労務管理の手法である。言い換えるなら,若年労働者の「使い潰し」にこの労務管理の特徴がある。

 今一つ注目すべきは,これらの労務管理が偶発的に行われたものではなく,刊行物などによって普及した「技術」であるという事実だ(4)。後述するように,この労務管理は主としてIT情報サービス産業や外食,小売り,介護などのサービス産業における新興企業に見られる。これらの労務管理を採る企業は近年の新規学卒の受け皿の一角と見られてきた成長企業群である。

 今野[2012]の指摘は,これら大学新卒が吸引される「ブラック企業」と呼ばれる就労先が,もはや偶発的な存在ではなく,「新しい雇用類型」と呼びうるほどに拡大し,洗練され,社会に定着しつつあるとの事実を示すものであった。

 同書の刊行後,「ブラック企業」についての検証は急速に進んでいる。まず,各種の労務ビジネスが「使い潰し」型の労務管理を促すありようが,今野[2013]に詳細に叙述された。また,「ブラック企業」の周辺諸分野への影響を分析した今野・棗・藤田・上西・大内・嶋﨑・常見・ハリス[2014]が刊行されたほか,「ブラック企業」と法的な関係性を論じたものとして今野[2014–a],労務管理の視点からは,そのプロセスを詳細に分析した今野[2015]が刊行された。
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(4) 労務コンサルタント等による具体的な記述や,労使関係への介入の事例については今野[2013]に詳しい。
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 さらに,若年離職の問題を計量的に考察した,小林・梅崎・佐藤・田澤[2014]や,若年正社員雇用の変化を,同じく計量的に分析した労働政策研究・研修機構[2015]が報告されている。

 これらは,「ブラック企業問題」についての客観的・学術的認識を深めた研究だと位置づけてよいだろう(5)。

 ⑶ 「ブラック企業」の概念化によって得られた示唆―

 以上の「ブラック企業問題」についての,背後関係となる事実が特定されていくことで,三つの示唆が得られるところとなっている。第一に,若年正社員における変化である。これは繰り返しになるため詳述しないが,事実認識のレベルで若年正社員における劣悪な形態の広がりと,これによる正社員内部の階層化が示された。

 とくに,「ブラック企業問題」が企業規模間格差によるものではなく,むしろ好業績の大企業においても顕現していることが重要であろう。

 第二に,「ブラック企業」による労務管理は,若年労働力を毀損するものであるとの認識が得られた。短期間に長時間労働に従事させ,時に「虐待的」な扱いを行うことにより,心身に支障をきたし,早期離職に結び付く。こうしたことは,個々の経営としての合理性を持つとしても,その膨大な医療費等のコストを外部に押し付けるものである。

 第三に,前二者のコロラリーであるが,「ブラック企業問題」は,若年雇用政策の転換の必要性を示唆している。若年雇用政策は従来から「正社員雇用」が持続可能なものであるという想定に基づく傾向があった。このため,入職を促すキャリア教育等の教育政策・労働市場マッチング政策が主とした「若年雇用政策」の位置を占めてきたのである。

 だが,正社員雇用の内部に大きな階層性があり,これが離職率の上昇や労働力の毀損をもたらしているとの事実認識は,企業側の労務管理の改善を促す政策や若年労働者に労働法上の権利の行使を促す教育の必要など,従来の認識枠組みではほとんど提示されてこなかった諸施策の必要性を示唆している。

 ⑷ 社会運動の展開―

 一方で,「ブラック企業問題」は当初から社会運動団体により定義づけられ,取り組まれてきた。先述の今野[2012]をはじめ,同問題は労働相談活動の現場からの問題提起として発信された。

 とりわけ,当初はNPO法人「POSSE」の労働相談活動から,問題が提起された(6)。 2013年7月には,「ブラック企業問題」に,被害者の法的支援を通じて対応する専門的弁護士団体として「ブラック企業被害対策弁護団」が発足し,同年9月には,弁護士・研究者・社会運動家・教育者等で構成する「ブラック企業被害対策プロジェクト」も設立された(7)。
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(5) 前者については今野・川村[2011]の問題提起が参照されており,後者については政府が「ブラック企業」を定義した「若者の『使い捨て』が疑われる企業」が調査仮説の念頭に置かれている。

(6) 同法人は東京,仙台,京都に支所を置くNPOであり,年間に2,000件弱の若年労働相談を受け付けている。

(7) 「ブラック企業被害対策弁護団」の設立は,「POSSE」代表の今野晴貴が,「ブラック企業」と頻繁に言及されていた株式会社ファーストリテイリング及びワタミ株式会社の代表取締役から,「通告書」による脅しを受けたことに端を発している。その後,全国300人を擁する被害救済の弁護団として発展した。また,「ブラック企業対策プロジェクト」は弁護士に加え,教育者等が連携することで,法的な解決をより浸透させると同時に,さまざまな啓発活動や政策提言を行うことを目的としている。詳しくは今野・棗・藤田・上西・大内・嶋﨑・常見・ハリス[2014]を参照。
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 これらの運動団体の特徴は,労働組合の強い関与の下に編成されておらず(8),「ブラック企業問題」を従来型の労使紛争としてではなく,社会的イシューとして表現したことにある。つまり,彼らは「ブラック企業問題」を,企業の違法行為や個別の被害だけに焦点化するのではなく,若年労働者の「使い潰し」に焦点を当てた。

 この問題設定は,教育や福祉,医療費,税収,労働力の確保,少子化などさまざまな問題と「ブラック企業」が連関して論じられる土台となった。「ブラック企業」が行政の取り締まりの対象となるのみならず,雇用政策や学校教育にまで影響を及ぼしつつあることは,こうした問題の発信源とその「立てられ方」の特性ゆえであったといえるだろう(9)。

 ⑸ 「定義」をめぐる問題―

 「ブラック企業」は上記のように,一定の定義づけをされることで,社会問題としての位置づけを与えられることになった。だが,同語はそもそも「ネットスラング」であり,語感からもその用いられ方は多義的である。このような中,社会運動団体が戦略的に「ブラック企業」を定義してきた事実は特筆すべきである。

 実際に,「ブラック企業被害対策弁護団」や「ブラック企業対策プロジェクト」では,「ブラック企業」を次のように定義している。

 狭義には「新興産業において,若者を大量に採用し,過重労働・違法労働によって使い潰し,次々と離職に追い込む成長大企業」であると定義できます…中略…「ブラック企業」を広義にとらえると,「違法な労働を強い,労働者の心身を危険にさらす企業」であると定義できます。

 このような用語法は,この問題の震源と政策上の有効性から,今日ではほぼ固まっている。すでに述べたように,政府は「若者の『使い捨て』が疑われる企業」との用語法を採っているが,これも「使い潰し」に連なる認識である。2013年8月に発表された厚生労働省の対策においては,離職率の高い企業に着目し,長時間労働やパワーハラスメントへの対応を中心的に行うとした。田村厚生労働大臣(当時)は当時の記者会見で次のように述べている。

 若者の「使い捨て」が疑われる企業ということで社会において今大きな問題となっております……我々も若者の活躍推進というものを挙げておりまして……このような問題が大きくなっていくのを見ておるわけにはいかないということでございます。この問題を野放しにしておいたのでは,再興戦略どころか,日本の国の将来は無いわけであります。

 同様に,近年話題を集めるようになった「ブラックバイト」問題についても,社会運動を通じてこうした「定義」に連なる位置づけが与えられている。大内・今野[2015]に詳しいが,「ブラックバイト」とは学生アルバイトが強度に職場に組み込まれ,長時間労働や厳しいノルマなどを課せられている実態を適示した用語である。
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(8) 「ブラック企業」は労働組合の主要な関心事にはならなかった。従来型労組の,未組織労働者への関心の低さ
によるものであると考えられる。
(9) 労働問題ではなく,社会問題として「ブラック企業問題」が提示された経緯と意義については今野[2014–b]
に詳しい。こうした問題構成は,一種の「言説戦略」であり,この結果として『ブラック企業』の著者は2013年
に「流行語大賞トップ10」(ユーキャン),「大佛次郎論壇賞」(朝日新聞)を受賞している。
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 ただし,「ブラックバイト」の語は,非正規雇用やワーキングプア問題等に連なり得る語感を持つ言葉でもある。このため,言葉の意味合いはやはり多義的であったが,「ブラック企業対策プロジェクト」は,この言葉の出自が大学生たちによるものである(10)ことから,「ブラックバイト」を「学生であることを尊重しないアルバイト」と定義した。

 このような定義づけによって,「ブラックバイト」は今や労働力の毀損,コストの外部化といった問題として「ブラック企業問題」に連なる社会問題であると捉えられるようになった。

   2 「正社員」における労務管理の変化―
 ⑴ 特定産業における傾向

 上記の通り定義される「ブラック企業」であるが,このような労務管理を行う企業は小売業やサービス産業の大手企業に集中している。もとより,「大量採用」が可能であるのは,知名度の高い大手企業に限られている。
 
 また,小売業やサービス業に「使い潰し」が多い要因は,同産業では労働内容を極度にマニュアル化することにより,比較的単純な業務に低賃金で長時間従事させることが経営合理的だからである。従来から,同じ要因により同業界では中高年労働者の過労死が見られたが,これが学卒直後の労働者にも波及しているものと考えることができる(11)。

 実際に,厚生労働省の統計によれば,大学卒業後3年以内の離職率は,産業により大きく偏って
おり,やはり小売業・サービス業において際立って高いことが示されている。

 ⑵ 事 例

 次に,典型的な事例を示す。紙幅の関係で,一件のみの例示になるが,重要な論点を多数含んだ事例である。

 聞き取りの対象者Aは,大手小売業(大規模ディスカウント店)に大学新卒で2008年に入社し,7年間就業した末,長時間労働から精神疾患を発症し,退職した。

 Aは地方中枢都市にある私立大学の3年生後半から就職活動をはじめ,同社に応募すると,早くも3年生の3月に内定が出た。初任給が月給23万円と他社にくらべて高額だったことが入社の動機だった。求人には「残業代は出る」とも書かれていた。

 だが,実際には深夜勤務の遅番に回され,17時から深夜2時が定時のはずが,16時から翌朝5時までの就労となった。法定休憩もとることができず,食事の時間も15分程度であった。また,給与についても,入社後に基礎給が15万円であり,みなし残業代(後述する「固定残業代」に相当する)として40時間分に相当する8万円が含まれていることが知らされた。さらに,40時間を超える残業について申請することは許されなかった。

 入社4年目の2011年6月,Aは「管理職」に抜擢された。昇進の際には労働条件についての説明はなく,「(給与は)上げるから」とだけ告げられたが,後に「管理監督者」扱いになる(月給32万円)ことが分かった。
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(10) 中京大学教授の大内裕和氏がフェイスブックで学生のアルバイトについて問題提起したところ,学生たちの間で大きな反響と広がりを見せたところに発端がある。
(11) これらの企業の経営実態は今野[2012,2015]に膨大に記載されている。
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 「管理監督者」の扱いとなった後,開店時間が長い店舗に異動になった。通常は夕方17時から早朝3時までの勤務時間が,その店舗では早朝5時までの勤務になる。長い日には16時から朝6時まで,連続で14時間勤務であった。まったく睡眠をとることなく,翌日のシフトに入ることもしばしばであった。

 アルバイトや正社員は常に人数が絞り込まれていた。特に深夜は,人数が足りなかった。昼は30人が勤務する店舗でも,夜は10人足らずのこともあった。一方で,「管理職」には必ず前年を上回る販売実績が求められ,これを達成できない場合には賞与の極端な減給や降格処分が行われていた。

 休日にも頻繁に店舗から呼び出しが行われることに加え,業績を達成するためにも職場から目を離すことができない。

 このような長時間労働とノルマ,慢性的な人手不足に順応していく中で,Aは次第に「思考停止状態」に陥っていったという。これはAが辞めずに7年間働き続けた理由とも関連する。「新卒採用だったので,『それが当たり前』だと思った」のだという。また,長時間労働で,「考える時間なんてなかった」と振り返る。

 これに関連し,長時間勤務により店舗に「張り付き」になることで,友人がいなくなるのも「辞められない」理由だという。プライベートな時間や交友がなくなり,友人とは年に1回しか会えなかった。同僚とだけ交友するので,異常さに気づけない。「おかしい」と思っても,口にするとすぐに社内で広まり,降格や,より厳しい店舗への転勤など,「何をされるかわからない」という事情もあった。

 過酷な長時間労働と業績目標の一方で,社内での「扱い」は理不尽だと感じた。上司から胸倉をつかまれたり,怒鳴られることもしばしばであった。残業をせざるを得ない業務状況で「なんで残業なんてしているんだ」と怒鳴られることもあった。入社一年目でインフルエンザに罹った時は,1日も休みがもらえなかった。その上,「何かかってんだよ」などの暴言を浴びせられた。

 次第に,「人間性が荒んでいくのがわかった」とAはいう。同じように自分も後輩を圧迫するようになり,商品を搬入する取引先の社員に,暴言を吐いたこともあった。辞めた後に,当時の自分を強く恥じたという。「とにかく狂っちゃうんですよ」。

 同僚には摂食障害になった者がいた。「味覚がない」といっていた。体を悪くして辞めた者,鬱
で辞めた者を10人以上見てきた。

 結局,Aもあまりの長時間労働に,ついには「泡を吹いて」倒れ,救急車で搬送されてしまった。1週間の入院中に,「このまま働き続けることはできない」とようやく判断することができた。だが,退職後の現在も後遺症の精神疾患に悩まされ続けている。

 Aの事例からわかることは,「ブラック企業」の労務管理が,過酷な労働と,「虐待」ともいえる労働環境の中で,社員を思考停止状態に陥れるということだ。それはときに「人間性の変質」をも伴っている。

 ⑶ 労働者の心理状態―

 上記の例にみられるように,「ブラック企業」の労務管理の下で,多くの労働者は長時間労働と虐待的な扱いによって「心神の喪失状態」に至る。若者は当初,労務管理に順応しようとするが,その過程で心身を病み,正常な判断力をはく奪される。そして,無感覚状態で過酷労働に従事し続ける「心神喪失状態」にまで至る。

 さらに,この状態が持続できなくなると,「辞めさせない」などの暴力的措置がなされる場合もある。 こうした採用から退職に至る一連の過程を図示したものが,図1である。


 当事者の親からNPO法人「POSSE」に寄せられた次のような相談事例には,典型的にこの状況が読み取れる。

 娘が毎日,日付が変わっても帰らない。休日も出勤することがある。体が痩せ細り,人相も変わってしまった。会社を休むようにいっても,「忙しい」と相手にされない。会社に洗脳されているのではないか。

 当人にとっては,どんなに持続不能な労働であったとしても,目の前のその業務をこなす以外に,思考の余地がない。「心神喪失状態」においては,「従順な機械ではないけれど,主体的でもない。異常な精神状態で,目の前にある業務に向かい合い続ける」のである。

   3 労務管理の戦略性と「ブラック士業」の介在―

 持続不可能な「ブラック企業」による労務管理は,しかしながら偶発的な現象ではない。むしろ,高度に洗練され開発された労務管理の「技術」であるといってもよい。その端的な現れが,法を潜脱するさまざまな「合理的」手法に現れている。

 その代表的なものが,事例中でも見られた「固定残業代」制度である。固定残業代には,基本となる給与の中にあらかじめ残業代を含める。「組み込み型」と,「業績手当2万円」のように,一定の手当を残業代分として支払う「手当型」の二類型がある。

 従来から,月に~万円などと手当を支払う「手当型」の手法は広く行われてきた。「業務手当」や「業績手当」などさまざまな名称に残業代を偽装するもので,入社後に,この「手当」が残業代分だと主張され,給与から違法に差し引かれる。

 これに対し,近年急速な広がりを見せる手法は,残業代をあらかじめ「基本給」に含めることで,「労働時間に対応する賃金」の基本的な関係を喪失させるものである。「手当」を偽装する方法にも問題があるが,「基本給」の中に残業代を含めてしまう方法は,「給与」そのものの額を誤解させてしまう点で,より悪質である(実際に,Aのケースにおいても,この誤解が入職の要因になっていた)。

 仮に,月給25万円,最低賃金が800円として計算してみよう。この25万円分の中に,法定労働時間(週40時間)に対応する賃金と,これを超えた分の賃金が両方含まれていることになる。

 月の法定労働時間を170時間だと仮定すると,法定時間内の賃金は13万6千円(170×800円)となり,残りは11万4千円である。これを法定外残業代に組み込むと,114時間分に当たる(割増賃金は800円×1.25=1000円)。つまり,新たに残業代を支払うことなく,使用者は過労死ラインを大きく超える,114時間もの残業を命じることができる。月給が30万円であれば,さらにこの時間は広がる(複雑さを避けるため,深夜割増賃金等については計算外とした)。

 このように,固定残業代を用いることで,給与が高いように偽装しながら,「安く,長く」働かせることを可能にするのである。NPO法人「POSSE」に寄せられた,次の労働相談事例をご覧いただきたい。

 新卒入社3か月で,中堅不動産会社に勤める方からの相談。求人票には「基本給30万+歩合給」とされ,勤務時間は「9:15 ~ 18:30」「完全週休2日制」となっていた。ところが,実際には月150時間以上の残業を命じられた。入社後の給与明細には,「基本給15万円」「固定割増手当15万円」との記載がある。固定残業代については契約の際にも説明がなく,また契約書にも記載はなかった。(20代,男性,正社員,不動産営業)

 このような相談事例は枚挙にいとまがなく,飲食店,小売店,IT産業などにおいては,かなりの程度普及している労務管理の「技術」である。

 ただし,もちろん,契約の段階で虚偽の表示をした場合には,正当な契約とは認められず,未払い残業代の請求が法的に可能である。裁判例では固定残業代の支払いが有効に成立し,残業代の不払いが認められるためには①割増賃金部分と他の部分の区別(固定残業代の金額の明示),②割増賃金部分に対応する労働時間の明示等,③固定残業代超過分の清算合意および実態が必要であるとされている。

 だが,固定残業制に対しては,後からの不払い賃金の請求が著しく困難である。まず,採用内定時や本採用時,あるいは入社後に真の労働条件が明示され,これに労働者が同意してしまっている場合が非常に多い。新卒労働者の場合,内定段階や本採用後にこれらの変更が提示されたとしても,他の就労先を再度探すことが難しいために,やむなく「同意」してしまう場合も珍しくはない。労働者本人が形式的にとはいえ「同意」してしまうことで,被害者は極めて争い難くなる。下記が典型的な実例である。

 100時間を超える長時間残業と上司によるセクハラで精神疾患を発症。休職を余儀なくされたため,OSSEに相談に訪れた。会社との交渉の過程で契約書を渡され,固定残業代があったことが判明。当事者は勤務中に「サインして」と言われるがままに署名していたが,契約書を熟読する時間を与えられず,また契約書の写しも与えられていなかった。月給は30万円ほどだったが,固定残業代として100時間分が含まれていた。

 そのため,契約書の内容に照らせば,残業代の支払い義務はほとんど存在しないことになってしまった。固定残業代があることをふまえて時給を再計算した結果,東京の最低賃金とほぼ同額となった。(30代,女性,正社員,SE)

 また,事前の説明も実在しておらず,労働者も明確に同意をしていなかったとしても,訴訟に訴えるには立証責任と係争費用の負担が生じる。使用者は「事前に説明していた」と偽証したり,同意書を偽造するなどする場合もある。

 塾の職員として新卒で正社員として雇われた女性の事例。入社した直後からサービス残業が月80時間ほどあり,辞めたいといっても辞めさせてくれない。退職と未払いの残業代を請求して,団体交渉を申し入れたところ,会社が雇った社会保険労務士が介入し,「そもそも基本給のなかに42時間分の残業代が含まれているので,残業代の支払い義務はない」という主張をしはじめ,請求を拒んだ。当人は,そのような契約を結んだ記憶はない。(20代,女性,正社員,学習塾職員)

 新卒労働者や若い労働者が,このような「虚構の事実」に証拠を以て反論し続け,請求を実現することは極めて困難である。その上,新卒の学生が訴訟で固定残業代の無効を争うことで得られる利益は,決して大きいものとはいえない。自らの契約関係を本来のものに変えさせて働き続けることが現実的に困難であるうえ,賠償金として得られる額も入社すぐには少ないからだ。その上,辞めた場合には「就職(転職)活動をやり直さなければならない」という事情もある。

 このため,ほとんどの学生は入社後に示された固定残業代について「同意」させられるか,すぐに辞め,転職活動をはじめるかの選択を迫られる。そこに,主観的な係争の余地はほとんどない。だが,「ブラック企業」の側としては,「同意」する者が残ることで,採用の目的を達成することができる。

 私はこうした係争費用の負担力の格差を戦略的に活用する手法を「費用の政治」と呼んでいる。「ブラック企業」に固定残業代を指南するコンサルタント(弁護士・社労士等)は,この事情(すなわち違法であるが,経営者はほとんど訴えられない)を把握したうえで,指南を行っている。

 こうした「費用の政治」は解雇においても行われる。現実に新卒労働者の解雇にかかる費用は極めて低いと言わざるを得ない。「ブラック企業」が「選別」の目的や,長時間労働の結果精神疾患に罹患した社員を解雇しようとする場合,パワーハラスメントの戦略的行使か,あるいは正面からの解雇が行われる。

 前者の手法は,極めて洗練されてきており,暴言や暴力など明らかな違法行為に当たらないよう,「ソフトな退職強要」として行われる場合もある。また,正面からの解雇も,給与が低い場合には損害賠償の金額が低く,その上未組織の若者であれば,やはりほとんどが司法に訴えることができないために,合理的な選択肢として理解されている。これらの方法論が確立しているために,「ブラック企業」においてはまったくといってよいほど解雇の障害がない。

 これら「費用の政治」の諸技術は「ブラック士業」と呼びうるビジネスアクターの介在によって普及している。コンサルタントが「ブラック企業」とネットワークを形成することで,「新しい企業層」ないし「新しい企業群」を形成していると見ることもできる。すなわち,「ブラック企業」は新しい労務管理のノウハウを蓄積し,実践する新しいタイプの企業群なのである。

 そして,これらの企業群の経営手法の特徴は,短期的に利益を上げるために,人材を毀損する点にある。言い換えれば,労働集約型の労働過程を編成し,短期的な利潤追求を繰り返す経営手法である。そして,こうした方法は,比較的熟練を要さず,労働集約的傾向を持つ小売業・サービス業を中心に広がってきた。

 「ブラック企業」の労務管理は,長期的な能力開発には資さないが,個別企業の利益を短期的に最大化させるには合理的なのである。以上に述べてきたように,新しい労務管理技術のネットワーク的普及と,その合理性の土台の存在(労働集約型業種の拡大)から,これらの現象が局所的なのものではないことが理解できる。

 さらに,近年では小売業・サービス業以外においても,営業職などの労働集約的な部門の労務管理(採用を含む)を分立させ,短期間に使い潰すような働かせ方が広がっている(18)。そうした事実の把握からも,「ブラック企業」の労務管理技術が,労働集約的労働に,一時的に過酷に駆り立てることで利益を上げる普遍的な手法であることが理解できる。
神社―神託の光


   4 「ブラックバイト」問題―

 ⑴ 「ブラックバイト」の労務管理戦略―

 以上のような「労務管理の技術」は,「ブラックバイト」にも関連した問題である。小売業・サービス業を中心とした学生アルバイトにおいても,労働集約的な労働過程において,人材毀損的な労働が課せられているからである。

 「ブラックバイト問題」の震源は,すでに述べたように,「学生であることを尊重しない」ことにある。その具体的な労務管理の様態として,大内・今野[2015]は以下のように分類している。

 A 職場への過剰な組み込み
①緊急の呼び出し
②長時間労働・深夜勤務
③シフトの強要
④複数店舗・遠距離へのヘルプ
⑤「責任感」で辞めさせない
⑥ノルマ・罰金・商品の自腹購入

 B 最大限安く働かせる
⑦最低賃金ぎりぎりで上がらない賃金
⑧未払い賃金・サービス残業
⑨仕事道具の自腹購入
⑩不十分な研修で即戦力化

 C 「職場の論理」に従属させる人格的支配
⑪パワーハラスメントや暴力による従属
⑫不当な内容の契約書による支配

 ①~⑫は「ブラックバイト」が行う行為のパターンを示すものであるが,その内①~⑥が示すように,学生は過剰なまでに職場に組み込まれている。ゼミの最中であろうと,授業中であろうと,アルバイト先の都合で呼び出され,対応を迫られる。

 その理由は,実際に彼らなしには職場が運営できないほどに彼らが戦力として組み込まれているからだ。このため,学生アルバイトであっても,職場に対し強い「責任感」が植えつけられている。

 それは,実際に「自分がいなければアルバイト先が運営できない」というぎりぎりの職場運営に対する,ある種の能動的な責任感である。それにもかかわらず,労働条件は概して低く,時に違法行為を伴うような低水準の条件である。

さらに,暴力や脅迫で職場に縛り付けられているケースも珍しくはない。これら劣悪な労働条件が「ブラックバイト」と呼ばれるゆえんである。

 一方で,A ~ Cはこれらのパターンの論理的な因果関係を示すものである。Aの分類は労働内容そのものを指しており,Bはこれに対する対価,Cはこれを補完するための措置である。すなわち,「ブラックバイト」と呼ばれる労働内容は,それ自体さまざまな違法行為を伴っており,学生に対して「酷い」ことはいうまでもない。

 だが,論理的な因果関係としては,A「職場への過剰な組み込み」があり,その一方でB「最大限安く働かせ」ており,これに従わせるためにC「「職場の論理」に従属させる人格的支配」が行われる構図となっている。

 つまり,問題の本質は,企業側の労務管理戦略にあるのであり,一部の暴力的行為や,労働法違反水準の待遇は,これとの関連の中で理解する必要がある。このようにとらえると,「ブラックバイト問題」も「ブラック企業」の場合と同様に,局所的・一過性的問題ではなく,特定の企業群の経営戦略の変化の文脈に位置づけられることになる。

 とりわけこの労務管理が,「ブラック企業」の場合と同じように,労働集約的な小売業・サービス業,しかも大手チェーン店で行われている点に注目してほしい。ここからも,「ブラック企業」の場合と同様に,「企業の労務管理戦略」として,安い賃金の学生アルバイトを,長時間,より重責の下に働かせることを戦略として「合理的」に行っていることが理解できる。

 ⑵ 絡み合う「ブラック企業」と「ブラックバイト」―

 「ブラックバイト問題」は人材毀損型の労務管理戦略として「ブラック企業問題」と連続性を持っているだけではない。その連関は,より具体的かつ多角的である。

 第一に,具体的な職場において,「ブラック企業」の正社員と学生アルバイトは代替関係にある。「裁量労働制」や「管理監督者」の扱いとされ,いわば「無限」に店舗等の労働に従事する「ブラック企業」の正社員にとって,学生アルバイトの戦力化と強度の活用は,自らの休息をとるためにも,業績を向上させるためにも,死活問題である。

 したがって,「ブラック企業」の職場では学生の活用をめぐり,正社員が学生を強度に活用するよう行動せざるを得ず,一方学生は正社員の過酷な労働を目視することで「責任感」を醸成される。こうした連続的で具体的な新しい職場の重層構造が形成されているのである。

 第二に,「ブラックバイト」の経験は,学生たちの心理における労働規範を形成する。極めて乏しい対価であるにもかかわらず,強度に職場に組み込まれる働き方を,「当たり前」のものとして受容する過程となる。あるいは「ブラック企業の労務管理への馴致」といってもよいだろう。

 こうした事態は,「ブラック企業」による労務管理の非正規雇用,さらには学生への「外延化」といってもよい。この「外延化」の背後には,非正規雇用が「正社員」になるために「トライアル」として過重労働に駆り立てるのと同様に,「社会人としての準備」や「職場体験」として「ブラック企業」の労務管理に順応するように駆り立てられている構図がある。

 第三に,労働力の毀損という点においても,この場合には学生として労働能力を高めるという事態であるが,「ブラックバイト」は「ブラック企業」と同じ帰結をもたらす。
2017-07-14 001 014



  5 社会的対策の展望―

 「ブラック企業」への対策に関しては,さまざまな分野での「意識転換」が重要である。「ブラック企業の概念化によって得られた示唆」においても示した通り,「ブラック企業」のような労務管理を採る正社員雇用が現実に存在することを踏まえ,教育や福祉,労働政策は転換していかなければならない。同時に,労働関係アクターもこれを踏まえた行動をしなければならない。

 しかし,課題があまりにも多岐にわたるため,紙幅の関係で,何点かの指摘にとどめざるを得ない。本節で提示する論点は,膨大な問題のごく一部であることをあらかじめ注記したい。

 ⑴ 実践的労働法教育の必要―

 「意識転換」の帰結として示される,必要な対策の第一は,学校教育における労働法教育の促進である。日本の学校教育においては,教養教育に加え,「企業に順応すること」を教えることに重きを置く傾向があった。暗黙の裡に,「企業は人材を育成する」という通念があるといってもよい。だが,現実に「使い潰す」雇用戦略を採る企業が多数に上る状況では,教員は意識を転換し,このリスクについて学生に教育することが急務である。

 その際に,注意すべきことがある。労働法の教育においては,「実践的」であることが何よりも大切だということだ。例えば,労働法教育の内容として,労働基準法を教えることが思いつくだろう。最近では労働行政関係者や社会保険労務士が講師として派遣されることも多くなった。しかし,「ブラック企業」の問題は労基法の知識の普及だけでは解決しない。

 労基法の対象外の問題が多数に上ることに加え,「条文」を知っていても権利を行使できないからだ。現に,NPO法人「POSSE」が若者3,000人を対象に行った調査では,労基法の内容を具体的に知っている者と知らない者で,違法行為の有無に影響していないことが示されている。

 したがって,より実践的な教育を行う必要がある。こうした方法については,「ブラック企業対策プロジェクト」において,高校・大学の教員,弁護士,NPO,労働組合関係者らが検討を深め,無料の資料を提供している。ぜひ活用してほしい。

 ⑵ 雇用・教育政策,福祉・医療現場での意識転換―

 第二に「ブラック企業」を前提とした意識転換は,雇用政策や教育政策の転換を求めることになる。早期離職を「若者の甘え」だと捉えるのか,職場環境の問題として把握するのかで,さまざまな雇用政策は大きく異なってくるはずである。同様に,就職先との心理的な面でのマッチングに重きを置いてきたキャリア教育についても,根本的な見直しが迫られることになる。

 また,医療や福祉の現場における意識の転換も重要である。被害者が,最初に相談に訪れる外部機関は,医療機関であることがほとんどであるからだ。医療機関の関係者が,過酷な職場環境が社会問題化しており,その一つ一つが労働災害の疑いが強いことをよく理解し,専門の労働相談機関に接続する意識を持つことは,とりわけ重要である。

 ⑶ 学校教育と「ブラックバイト問題」―

 第三に,「ブラックバイト問題」への教職員の対応が求められる。すでに述べたように,「ブラックバイト」は学生を短期的な利益のために使い潰し,日本の将来の産業の担い手を毀損してしまう。また,違法や不当な労働に慣らされることで,就職後も「ブラック企業」にはめこまれてしまうリスクを高めてもいる。

 「ブラックバイト」は学生の問題ではあるが,彼らだけを「当事者」にしていたのでは,解決することができない。「ブラック企業」と「ブラックバイト」の決定的な差異は,彼らが職場の中のみに閉じ込められておらず,大学のゼミナールであれ,高校や専門学校であれ,「学校」という空間に接続していることである。学校の教員は,彼らの背中を押すことで,法的な権利を効果的に促すことができるだろう。

 また,こうした実践は「ブラック企業」への対策としても極めて有効である。現在は,「ブラックバイト」の経験が「ブラック企業」の労務管理へと学生を馴致している側面がある。だが,学生のうちに法的権利の行使を経験することによって(しかもそれは,就職後よりもずっと容易である),むしろ「ブラック企業」の不当な行為に抵抗する経験を積む機会となるのである。

 このように教員が「ブラックバイト問題」に対して取り組める内容についても,「ブラック企業対策プロジェクト」が法的対応のマニュアルや,教員が就労先に警告するためのFAXのひな形などを無料で提供している。

 ⑷ 労働組合法・労働組合の意義―

 最後になるが,第四に,労働組合法及び労働組合の意義について,新たに社会的意義が確認されていることを指摘したい。本稿では「ブラック企業問題」を社会問題として,社会のさまざまな分野に関連するものと定義づけてきた。

 だが一方で,この問題はいうまでもなく労使関係における問題である。従来の労務管理とは異なる,新しい「使い潰し型」の労務管理が生成した要因は,職場において労使関係が喪失し,一方的な労務管理が行われていることにある。

 「ブラック士業」によるコンサルタント・ネットワークも,「費用の政治」による戦略的な管理も,すべて労働組合法上の権利を労働者が有効に行使しないことを前提にしている。すなわち,「ブラック企業問題」の解決を目指すことは,新たな労使関係を構築していくということを不可欠とする。

 また,「ブラックバイト」に関連しても,彼らの問題の解決は,やはり職場ごとの労使交渉に求められる。アルバイトの問題においても,シフトの在り方など,労基法の対象にならない問題が主要な問題であり,これは職場の交渉によってしか解決できない。

 「たかの友梨」を運営する株式会社不二ビューティと「エステ・ユニオン」がマタニティーハラスメントや過剰なノルマを撤廃する労働協約を結んだ事実が広く報道された事がある。労働協約の締結によって,労働者が健康を維持し,子育てが可能となる職場環境を獲得しつつある事例である。

 このような「使い潰し」を抑止する新たな労働協約締結が,今後の課題であろう。このように,「ブラック企業問題」の登場によって,日本の労働力を保全し,社会の安定に寄与するものとして,改めて労働組合法・労働組合の意義が問い直されてもいる。

 終りに,いまだ「ブラック企業」に対する実証研究,あるいはこれを踏まえた諸分野の探求は途に就いたばかりである。自身の課題でもあるが,今後もさまざまな分野から,この現象の研究がなされることを期待したい。(今野晴貴 NPO法人POSSE代表「ブラック企業問題の沿革と展望」寄り転載)

                  ――◇◆◇――


2017-06-27 001 001

ホタルブクロ

本日もご訪問ご拝読頂き誠に有り難うございます。これからもどうぞ宜しくお願い申し上げます。

●先日の蛍観賞会(むろいけ園地:大阪府四条畷市)は少なかったけど蛍が観れました。
●7月18日(火)は百貝岳へ下見に行ってきます。^^(参加者は要ご連絡!)

★7月23日(日)は、鳳閣寺~百貝岳登山です。展望台は見晴らし良好です。只今募集中!!
 金曜日に下見に行って参りますが但し便乗者は無料です。(9:30-大和八木駅前南発―店にちょっと寄り道してから吉野方面金峯神社Pへ向かいます。 )P→神社から→西行庵→・・・百貝岳山頂へ→西行庵(跡 )
→神社→P→→高城山P→山頂展望台→P→→16:00-頃に茶話会又は駅前(解散)へ送迎。

★8月1日(火 )は、夕方から二上山登山&(山の上から観る)PL花火観賞会に参加しませんか~?!^^(要連絡)

8月27日(日)は「玉置山登山&最古の玉置神社参詣」へ参ります。樹齢三千年の神代杉を初めて観ますが 今からワクワクしています。皆様お誘い合わせの上ご参加下さいませネ~。^^
玉置神社
"玉置神社"

2017-07-07 001 002

二上山雌岳


                ――◇◆◇――                


●みんな健康が一番!!

● 父母 にプレゼント&祖父母にも喜ばれるものは何~?! ?

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